特級グランド・コンチェルト2023:谷 昂登さんインタビュー

特級グランド・コンチェルト
谷 昂登さんインタビュー
グリーグのピアノ協奏曲——国や文化の色を感じながら
ルーツはロシア音楽にあり

グリーグのピアノ協奏曲について、これまで演奏する機会はありましたか?

これまで北欧の作曲家を演奏する機会は多くはありませんでしたし、グリーグのピアノ協奏曲も初めてです。改めて聴いてみると、北欧ならではの国の色や風景、文化を感じられる作品だと思います。

谷さんはロシアの音楽が好きだそうですね。ロシアも同じく国の色を感じさせる作品が多いですが、そこに通じるものもあるのかと思いますがいかがでしょうか。

そうですね。ロシアも北欧も気候的に寒いですが、やはり北欧の作品の方が幻想的な雰囲気を持っている気がします。

谷さんのルーツを探る上でロシア音楽は欠かせないと思いますが、どうしてロシア音楽がお好きなのでしょうか。

生まれ育った北九州市で習っていた先生がモスクワ音楽院の出身で、ロシア音楽をたくさん演奏される方でした。その影響もあり、音楽自体の大きさや深さ、独特の旋律、広大な風景に魅力を感じるようになったんです。ロシア音楽を聴いていると、心が抉られるような気がします。

今は試行錯誤と吸収を重ねる時期

谷さんは2020年の第44回ピティナ特級で銅賞を受賞されました。3年経とうとしていますが、この間にどのような変化がありましたか。

当時の特級ファイナルのメンバーとは今でも交流があるのですが、ピアノを通して学外でも仲間ができたのが大きいです。森本隼太くんとは今でも繋がりがありますし、山縣美季さんとは同じ演奏会で共演することもあり、自分にとって大きな刺激になっています。

また特級当時はコロナ禍だったこともあり、それまでより生活が変化したり、そこに受賞も重なって演奏会が増えたりする中で、自分の求める音楽に向き合う時間が増えました。そこで、ロシア音楽だけでなくシューマンやブラームスなどのドイツ音楽にも目を向けるようになったんです。

ドイツ音楽に興味を持たれたきっかけは。

ロシアの作品やピアニストの系譜を辿ると、ベートーヴェンやリストなどに辿り着くように、ロシア音楽にもドイツ音楽の要素があることに気づいたのがきっかけです。

グリーグもドイツのライプツィヒで学んでいたからか、ドイツ音楽のもつ形式的な側面を受け継いでいるので、作曲の方法自体はドイツ的だと思います。でも、ところどころにある印象的なハーモニーは、ドイツ音楽にはないものだなと思います。

現在は桐朋学園大学で学んでいる谷さん。ご年齢的にも、今は特にあらゆる学びを吸収する時期だと思いますが、いかがでしょうか。

そうですね。今は試行錯誤をしていく時期だと思っています。さまざまな作品に触れて、その共通点や相違点を見出しながら、作曲家の考えていたことに迫っていきたいと思っているところです。

最近は室内楽の機会に恵まれていて、ソロだけでは得られなかった学びがたくさんあります。例えば、弦楽器とピアノは音の出る仕組みがまったく異なっていて、弦楽器の場合弓のアップダウンで音の向きが変わりますよね。すると、ピアノと弦楽器の中でも同じ瞬間に方向性の違う音が生じて、それがむしろアンサンブルの呼吸感を生み出して三次元的な音楽になる。そのリアルさは、人間の声にも似ているなと思ったりします。

そして協奏曲は、室内楽が拡大した形だと捉えています。大人数ではあるものの、管楽器とピアノソロが1対1で会話をするようなときもあれば、他の楽器の演奏者とコンタクトを取るときもあり、室内楽と共通する点は多いと思いますね。

今の自分にできる演奏をする

今回の公演では、阪田知樹さんと桑原志織さんという先輩のおふたりと共演することになります。おふたりへの印象や、谷さんご自身の意気込みを教えてください。

知識が豊富でとことん学びを追求される阪田さんと、表現力の幅が非常に広い桑原さん。彼らが協奏曲を合わせている姿を生で見られるのは細かな気付きもあると思うので、学ぶ機会になると思います。

もちろん緊張しますが、ひとまずは自分にできる演奏をやりたいです。昔よりも作品一つひとつへの理解度は深まったのかなと思っているので、「思うがままに演奏する」と言うよりも、第三者的な目線が持てる演奏が出来るといいのかなと。

今回の公演には、谷さんに憧れていたり、将来さらにピアノを極めていきたい学習者が多く来られるかと思います。来場者にメッセージをお願いします。

僕自身が小学生の頃は、演奏会に行く前に作品の作曲背景を調べたり、開演前にプログラムの解説を読んだりしていましたね。もちろん、まっさらな状態で音楽を聴くことも大切だとは思いますが、あらかじめインプットしておくことで、演奏会自体が学びの機会になるのかなと思います。今回のように阪田さんや桑原さんのようなすばらしいピアニストが揃うのは滅多にないことだと思うので、ぜひ来ていただけるとうれしいです。

インタビュアー・文:桒田 萌 Moe Kuwada

 
▼ コンサート詳細 ▼
特級グランド・コンチェルト

主催:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会/ザ・シンフォニーホール

シンフォニーホール40thロゴ
ピティナロゴ
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