インタビューVol.5:伊賀あゆみさん&山口雅敏さん(2)

学校クラスコンサートインタビュー
Vol.5:伊賀あゆみさん&山口雅敏さん(2)

2005年のピティナ学校クラスコンサート創始期から17年間ご出演いただいている伊賀あゆみさん(1997特級グランプリ)と、2011年からデュオでご出演いただいている山口雅敏さんのお二人に、長年の学校クラスコンサートの中で大切にしてきたことや忘れられない思い出、そしてこれからを担う若手のアーティストへ伝えたい想いなどを語っていただきました。(前回の記事はこちら


アーティストとして学ぶことの多さ

私も学校クラスコンサートをスタートした時は楽器の説明もしたことがなかったので、鍵盤の数を改めて確認してみたり、重さは何キロぐらいあるんだろう?などと、子どもの視点に立って構造や歴史を改めて確認し、再勉強しました。

トークも最初はつたなかったと思います。初めのうちは台本を書いて覚えたりもしていましたが、だんだん回を重ねるごとに、子どもたちの反応を見ながらできるようになってきました。説明調で喋るよりも、友達と会話するような感覚で聞いてもらう方が耳に入りやすいと思い、意識しています。

音楽室というとても小さな空間で、ピアノの周りに集まって聴いてもらうことで、子どもたちの驚きや興味、そして音楽を感じているということを演奏者側も肌で感じられるというのが、学校クラスコンサートならではのいい所だと思います。普段のホールでのコンサートとは全く違う感覚ですね。

それは、アーティスト側にとってもすごく大事なことで、その反応を見ながらキャッチボールをするという感覚を、まずそこで実体験できると、大きなホールで演奏する時であっても、やはりお客さんとのキャッチボールを意識できるようになるのではないかなと思います。アーティストも、お客さんの心が震えていることを感じた時に、こちら側の心も震えます。「感動」を一緒に共感できるという感覚をみんなに知ってほしい、一緒になっている時間を共有することの素晴らしさをコンサートでも大切にしていきたいと思っています。そういう原点の感覚を感じさせてくれるのが学校クラスコンサートだと思いますので、これから演奏活動をしていく若手の音楽家たちには、ぜひ経験してもらいたいことですね。

演奏家としての勉強になるという点では、学校クラスコンサートを通じて色々な楽器の方と共演させていただいていたことも大きいです。素晴らしい新しい出会いがたくさんありましたし、レパートリーも増え、アンサンブルの能力も高められるし、共演者にはオケのアウトリーチで慣れていてトークが上手な方も多いのでとても参考になります。

逆にオケのアウトリーチに誘っていただくこともあるのですが、その場合、楽器紹介はヴァイオリンやコントラバスがメインになって、ピアノはおまけで説明して1曲くらい弾くくらいです。ピティナの学校クラスコンサートでは、ピアノも対等に半々の時間を取ってやるという点がオケのアウトリーチとは違うので、私は敢えて学校クラスコンサートの時にはピアノの時間というのを大事に説明するようにしています。子どもたちにとって普段見ない他の楽器への興味がすごく大きくて嫉妬してしまうのですが、いつも見ているはずのピアノという楽器の魅力への驚きというのも大きく感じます。

忘れられない思い出

長年学校クラスコンサートを行ってきた中で、本当にたくさんの思い出があります。最後に代表の生徒さんが、感極まって泣きながら感想を言ってくれたこともありました。また、特別支援学級のお子さんで、とても音に敏感なので普段はピアノの音を聞くと教室の外へ出ていってしまう男の子が、私たちの演奏の時にはピアノの下にもぐって聴いてくれて、後から担当の先生から「いつもはピアノの音を聞くと逃げていた子が、今日はすごく楽しそうに聴いていたのに驚きました」と教えてくださったことがありました。音楽の力というのを感じた思い出の一つです。翌年もその学校へ行ったのですが、そのお子さんは私たちの訪れをとても楽しみにしていてくれて、コンサート前にあいさつに来てくれ、その年も最後まで聴いてくれました。子どもがどのように感じるかというのは、大人の私たちの想像を超えるもので、そういう場面に出会うことが、学校クラスコンサートでは多くありました。

教室に入った時の、子どもたちの期待にワクワクした空気とか、はじめは少しざわついていた教室が、演奏を始めた途端にすごく集中して聴いてくれていることを感じた瞬間とか、子どもたちのキラキラした目とか、普段は手を挙げない子が質問してくれたと言われた時とか、子どもたちの共演の歌声に思わず涙してしまった瞬間とか・・・本当に忘れられない瞬間がたくさんあります。

学校クラスコンサートの活動の意義

これまで学校クラスコンサートに行ってきて、この活動の意義、役割というのはやはり「子どもたちに生演奏での感動体験をしてもらえる」ということに尽きるのではないかなと思います。YouTubeで簡単に音楽を聴ける時代になりましたけれど、生で、空気を通じて、目の前で奏者が演奏している。しかもそのピアノというのは、普段子どもたちが見慣れている音楽室のピアノです。そこから普段聞かないような演奏が繰り出され、その様子を肌で感じてもらえる体験というのは、たった1回かもしれないけれど、子どもたちにとっては生涯残る思い出になるのではないかなと思います。

私自身も、子どもの時に初めて目の前で見た演奏に、震えるほど感動したという経験があり、そういう思いがあって今もこのようして弾き続けていられるので、学校クラスコンサートの意義は長い目で見ても大きいと思っています。チェリストのロストロポーヴィチはとても幼児音楽教育に熱心で、「幼児期の音楽教育はとても重要で、まさにその時期にしか得られないこと。その時期に体験したことは一生の財産になる。けれども音楽教育は家庭や個人のレッスンに任されているので、学校での音楽教育やこのように音楽を体験する場はもっと活発にすべきだ」と言っています。そういった言葉を胸に置きながら、今後も学校クラスコンサートを続けていきたいと思っています。

同じ地域の子でも、色々な事情でクラシックの音楽を聴きに行く機会のない子どもたちがたくさんいる、と学校の先生からお話いただくこともあります。そういう垣根を越えて音楽をみんなに届けられたらなと思っています。

子どもの時の印象的な記憶ってすごく大事で、そこから、音楽ってこうして自由に感じて楽しんでいいんだとか、楽器を弾くのって楽しそう、などと思ってもらえたら、もっと音楽も身近になってくると思いますし、楽器を弾かなくても、聴く楽しみというのを持ってくれることで、音楽界のこれからの支えになります。そういった文化が育ってくれるといいなと思っています。音楽で培った感性は、子どもたちがこれからの人生を生きる力、人間力を育てることにもなると思うので、私たちもこれからも大切に取り組めたらなと思っています。

(2022/10/3これからの音楽教育を考える会 第2回 より)

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学校クラスコンサート
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