インタビューVol.5:伊賀あゆみさん&山口雅敏さん(1)

学校クラスコンサートインタビュー
Vol.5:伊賀あゆみさん&山口雅敏さん(1)

2005年のピティナ学校クラスコンサート創始期から17年間ご出演いただいている伊賀あゆみさん(1997特級グランプリ)と、2011年からデュオでご出演いただいている山口雅敏さんのお二人に、長年の学校クラスコンサートの中で大切にしてきたことや忘れられない思い出、そしてこれからを担う若手のアーティストへ伝えたい想いなどを語っていただきました。(「第2回これからの音楽教育を考える会」より再編)


17年間の学校クラスコンサートとの関わり

私は学校クラスコンサートに関わり始めてもう17年くらいになります。最初は埼玉県の北本市、東京都西東京市、そして地元の練馬区とやってきました。出身地である福岡でも、現地で千鳥ステーションの堀佐知子先生がコーディネートしてくださったおかげで開催することができました。また、各地のステップにアドバイザーでお伺いする際に、翌日に学校に呼んでいただいたこともあります。なかなか私たち自身が学校へ突撃して「やります」と言って実現できるものではないので、こうして続けていられるのは、ご紹介してくださる方の地元の学校とのつながりや、各地区で学校との間をコーディネートや当日までのご支援をしてくださる先生方や事務局のおかげです。

私は2011年からデュオで学校クラスコンサートに参加し始めました。その頃既に伊賀さんは全国で100校以上の実践を積んでいたので、安心して参加することができました。私が加わることで、「ピアノ連弾を通して、子どもたちに音楽教育の面で何が提供できるか?」をメインに考えながら試行錯誤してきました。

自由な聴き方、様々な感想

学校クラスコンサートでは4年生を対象にすることが多いです。4年生になると、自分なりの聴き方ができるようになってくるので、クラスコンサートを体験すると様々な感想が出てきます。人数の少ない学校によっては低学年と高学年に分かれてなどで開催することもありますが、コンサート中の反応や最後に感想として出てくる言葉に、年齢による受け止め方の違いも表れて面白いです。

私たちの学校クラスコンサートの流れとしては、伊賀さんがピアノの鍵盤の数や構造、歴史など楽器にまつわるお話をして、ピアノソロを聴いてもらうパートと、私たち2人で連弾の魅力を伝えるパート、そして子どもたちと共演するパート、最後に質問コーナーを設けています。

ピアノソロや連弾は、ピアノの魅力を体感してもらえるよう、子どもたちにピアノの周りを囲んでもらって、好きなところで自由に聴いてもらっています。ハンマーに興味を持った子は楽器の中をのぞきながら。ピアノの下にもぐりたい子はもぐったり。

「ピアノの外側だったら触っていいよ」と言うと、ピアノに耳をつけて音の振動を感じながら聴いていたり、「どこで聴いてもいいよ」と言ったら、床に耳をつけて「あ、なんか本当に振動している」と言っている子もいました。曲にあわせて体を揺らしたり、踊っている子もいました。そういう風に自由に間近で聴いてもらえるというのが、学校クラスコンサートの一番いい所だと思っています。

連弾の魅力を伝え、子どもたちとも「共演」する

私たちの連弾のスタイルが、2人の手を交差させたり、二人羽織をしたり、鍵盤上を目まぐるしく4本の手が駆け巡るのが特徴的なので、それがすごく面白いらしく、私たちが演奏する姿を真似してくれたりしています。

コンサートでは子どもたちにも連弾を体験してもらっています。といっても、ピアノを弾けない子もいるので、1本指で「ソーソーソーソー」とオクターブを弾き続けるだけで連弾できるように、例えば有名なピンクパンサーの曲などを、子どもの1本指と連弾できるようにアレンジしています。

私たちが演奏した後に「連弾やってみたい子ー?」と聞くと、たくさん手が挙がります。ある時すごく元気な子が「やりたい!」と手を挙げてくれたのですが、決まった途端に「大丈夫かな…」とすごく心配そうにやってきました。演奏が始まると本当に一生懸命、顔を真っ赤にしながら弾いてくれて、演奏が終わったらすごく喜んで、「自分もピアノを弾けた!」と嬉しそうに席に戻っていったのがすごく印象に残っています。

学校クラスコンサートではこれ以外にも「共演コーナー」があり、子どもたち全員と何かを合わせる機会を必ず作っています。例えば校歌を私たちの伴奏で歌ったり、合唱や合奏、ダンス、子どもたちの手拍子とあわせて演奏することもあります。私たちが演奏するだけでなく、常に「子どもたちと何かを共演する」ということも大切にしています。

子どもたちの聴く力と選曲

演奏する曲の選曲については、学校の指導要領に載っている鑑賞曲から「剣の舞」やブラームスの「ハンガリー舞曲第5番」、サン=サーンスの「白鳥」なども弾くのですが、有名曲でなくても、例えば私たちしか弾いていないような珍しい曲であっても、曲自体が魅力的であれば、子どもたちはとてもよく耳を澄ませて聴いてくれます。

ある時、ブラームスのピアノ四重奏のジプシー風ロンドという、最後に向けてどんどん速くなっていく曲を演奏しました。クラシック好きでないとあまり聞かないような曲かもしれませんが、それのピアノ連弾版を演奏したところ、本当に子どもたちは音楽にあわせて走り回ったりくるくる回ったり、もう大興奮して大変な大盛り上がりになりました。学校クラスコンサートでは選曲に関しても幅広く行えるなというのが実感できた瞬間でもありました。

他では聞けない曲、その時練習している曲が喜ばれることもあるし、ヴァイオリンソナタの大曲でも子どもたちはしっかりと聴いてくれるので、若いアーティストの方々にもぜひ果敢に挑戦していただきたいなと思っています。

(2022/10/3これからの音楽教育を考える会 第2回より)

(2)へ続く


学校クラスコンサート
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