特級グランドコンチェルト開催記念インタビュー Vol.1 福田成康ピティナ専務理事
来る5月1日、大阪のザ・シンフォニーホールに於いて、関西フィルハーモニー管弦楽団との共演で、ピティナ特級を沸かせた3人の若手ピアニストによるピアノコンチェルトの競演が開催されます。この公演の実現にあたっての想いを、福田成康ピティナ専務理事に聞きました。
この公演の開催に込められた意図とは
特級グランドコンチェルトの実現にあたっては、大きな目的が2つあります。1つは、ピアノを学ぶ子どもたちが生でコンチェルトを「聴く」機会を作り、ピアニストの「憧れの存在」を持つきっかけとして欲しいということ。もう1つは、ピティナの特級入賞者の若手ピアニストたちがコンチェルトを「弾く」機会を提供して、もっと国際的に活躍していって欲しいということです。
ピティナでコンチェルトを主催するのは、特級ファイナルと、40周年、50周年の記念コンサートくらいです。おかげ様で特級ファイナルには多くの方が集まってくださり、YouTube配信では全国の多くの方が聴いてくださるようになりましたが、生では東京でしか聴くことができていませんでした。それだと、小学生のうちにコンチェルトを聴く感動を体験して欲しいと思っても、どうしても難しい人が多くなってしまいます。そこで今回、少しでも多くの子どもたちに配信ではなく「生で」コンチェルトを聴く体験をしてもらおうと、第二の都市圏である大阪での公演を企画しました。
今回のコンチェルト公演の一般発売は学生券が5%程度のところ、今回専務理事のアイディアでピティナ優先予約期間に『教室団体割引』を設けたところ、学生の割合が30%を超えていますね。
多くのピアノ指導者の方々が、生徒さんを連れて聴きに来てくださるということで、とても嬉しいですね。
ピアノの生徒さんたちが練習したくなるモチベーションとして、一つは「弾く」機会としてコンペティションなどをやっているわけですが、もう一つのキーワードは「憧れ」だと思っています。サッカーをしている子には「憧れのサッカー選手」がいるみたいに、ピアノを学んでいる子たちにも「憧れのピアニスト」という存在がいるといいなと思っています。それも、どこかのテレビで観た知らないピアニストではなく、直接触れ合った時に生まれる憧れって、本当に強いんだろうなと思うのです。自分たちの先輩の特級入賞者たちがオーケストラとコンチェルトを弾く姿を直接見て、「将来あんな風になりたい」という強い憧れを持ってもらえるような機会を作っていきたい、そんな想いで企画しました。
特級入賞者にとっても、コンチェルトの共演はとても貴重な機会となりますよね。
ピティナの特級の入賞者たちには、海外でどんどん活躍していって欲しいと思っています。多くの国際コンクールでは、ファイナルでオーケストラとの共演があります。そこに到達した時に、日本人のピアニストたちは、コンチェルトの経験が足りない人が多いのです。ショパンコンクールで入賞した反田恭平さんや小林愛実さんは、プロの演奏家としての豊かなキャリアを積んで来た方たちなので、そういった場でも通用するだけの経験がありました。ですが、あれだけのキャリアを積んだ上で挑戦できる方はなかなかいません。過去の入賞者たちからも、「コンチェルトを弾く場が欲しい」という切実な声が聞こえてきます。学生のうちからそういう経験ができる環境を作っていくことで、彼らが国際的に活躍する手助けをしたいと思っています。
今回は藤岡幸夫氏の指揮で関西フィルハーモニー管弦楽団との共演が実現しました。
藤岡先生は、若い人を育てなきゃという気持ちが強い方です。角野隼斗さんも、まだ彼がこんなに有名になる前から共演して応援くださっていましたが、今回もご快諾いただき、本当にありがたいです。
関西フィルのようなオーケストラは、地域に根差した究極のレジデント・アーティストだと思いますが、ピアニストでもレジデント・アーティストという存在がいてもいいと思っています。リサイタルをするばかりではなく、地域の奏者と共演したり、学校や病院など色々な施設を訪問して、そういった人たちにホールで地元のオーケストラとコンチェルトを聴かせてあげられる、そういうプロのアーティストが各都市にいて、地域のホール、オケ、学校や各施設と連携して、地域の顔となって活躍できたらいいなと思うのです。こうしたレジデント・アーティストに企業スポンサーがつけば、学校や病院からお金をいただかなくても、多くの施設を訪れることができます。そうしたピアニストが、育ってきた後輩のグランプリと一緒にコンチェルトを競演する、 そんな夢を描いています。
今回出演する3名のピアニストについて、期待するところは
森本隼太さんは、中学1年生にして福田靖子賞、高校1年で特級銀賞を獲っていますので、ランランのように世界的なピアニストになって欲しいなと思っています。今回のプログラムのリストの協奏曲1番は、森本さんの師匠の関本昌平さんが高校1年の時に演奏したのを聴きましたが、その後100回聴き直すくらい本当に素晴らしかったのを覚えているので、その弟子の森本さんがどのように弾くのか、とても楽しみにしています。
尾城杏奈さんは、グランプリ獲得後1年を通して活動を共にしてきましたが、柔軟な対応力に非常に長けた方です。ものすごく忙しい中でもコンサートを引き受けてくれ、しかも持ち曲から出すのではなくて、そのコンサートにふさわしい曲目を選んできてくれるのです。すごい譜読み力ですし、度胸も据わっているので、これから色々な場で活躍して欲しいなと思っています。ファイナルでのアンサンブル的魅力の溢れたラフマニノフも好きでしたが、今回のショパンの1番にも期待しています。
亀井聖矢さんは、特級ファイナルでのサン=サーンスの演奏を聴いた時の、こんなにも感動するものかと思うくらいの衝撃を覚えています。本当に音色が多彩で、今でもYouTubeで聴いてはその時の感動をフラッシュバックさせています。今回のラフマニノフの3番は、杉並公会堂での演奏を録音で聴かせてもらいましたが、いかにも亀井さん向きだと思っています。2020年特級でのラフマニノフ3番の競演がありましたが、亀井さんらしさというのをどのように出していくのか、という観点でも楽しみです。
ソリストにとっても挑戦しがいのあるプログラム、聴衆の中の子どもたちにも響くといいですね。
今回の大阪での特級グランドコンチェルトを機に、若手ピアニストが世界へはばたき、その姿が多くの子どもたちの憧れとなり、地域の人々や団体とピアニストとのよい循環を生み出すきっかけとなれば、と強く願っています。