第1452回:12/17 草加市立松原小学校(稲沢朋華pf・髙倉理紗子vn)
中休み、筆者が音楽室に足を踏み入れようとすると、親しみのある映画音楽と歓声が聴こえてきました。1クラス目が終わった休憩時間に、なんと児童からのリクエストに即興で応えていたようです。「もうすぐ次の授業があるんじゃない?」と声をかけるも、名残惜しそうな様子です。そんな即興にも応えてくださった今回の演奏者は、2025年の特級グランプリに輝いた稲沢朋華さん(ピアノ)。髙倉理紗子さん(ヴァイオリン)を迎え、稲沢さん初のクラスコンサートが開催されました。

コンサートの幕開けは鍵盤ハーモニカとヴァイオリンで、「聖者の行進」を演奏しながらの登場です。手拍子で始まり、児童の視線を掴むと…自己紹介では、「今日は私のことはコメ先生って呼んでね!せーのっ!」とレスポンスを促し、次は児童の心を掴みました。稲沢さんの温かみのある語り口は、児童の緊張をほどいていくようです。

ピアノとヴァイオリンの1曲目は、ピアソラ作曲の『ブエノスアイレスの冬(一部省略)』。稲沢さんが日本の冬とは異なる壮大な風景の写真を見せると、そびえたつ氷河の様子に「寒そう~!」との声が上がりました。児童のイメージが膨らんだところで、演奏を開始します。

続いては稲沢さんのピアノソロです。「さあみんなにクイズがあります!この鍵盤、何個あるでしょう?」とクイズで始まり、児童をピアノの周りに呼び込みました。ピアノソロでは、ピアノを囲んでの鑑賞です。ハンマーが弦を叩いて発音する仕組みや、ペダルの役割を説明すると、児童は「すごい!」と興味津々でピアノの中を覗いていました。

稲沢さんは、ピアノに関する予備知識を与えたうえで、ドビュッシー作曲の『小さな黒人』を演奏しました。


モンティ作曲のチャルダッシュでは、再びヴァイオリンとの演奏です。演奏前に高倉さんから、ヴァイオリンについての楽器紹介がありました。人気のゲーム音楽を、様々な技法で表現すると、児童からは驚きの歓声が沸きました。ピアノとは異なる音色の種類や、「弓は何の毛で出来てるかな?」と3択のクイズ形式で、高倉さんも児童との交流を深めます。演奏中は、生徒の席まで練り歩き、ヴァイオリンの様々な演奏技法や音色をダイレクトに届けました。

コンサートの最後は、児童にも参加してもらい、校歌を一緒に演奏しました。質問コーナーでは、「そんなに早く指を動かして、こんがらないのですか?」と子どもならではの目線に、微笑ましくなる場面もありました。

子どもたちの感性を大切にした声掛けと充実した選曲の今回のコンサートは、きっと忘れられない思い出になったことでしょう。演奏を聴く児童は思い思いに音楽を楽しんでおり、リズムに乗って体を揺らす子や、キラキラした眼差しで見つめる子等、いつもの音楽室がコンサート会場に大変身しました。
レポート◎岡山真奈(Wキャリア職員)
アウトリーチでは、これまでクラシック音楽を単体でお届けする機会はあまり多くありませんでしたが、今回の学校クラスコンサートでは、児童の皆さんにクラシックをたっぷり聴いてもらえる貴重な機会となりました。そのため、新曲の選曲や導入方法にさまざまな工夫を凝らしました。

まず、体で季節感を体感できる冬の名曲から始め、ピアソラの《ブエノスアイレス》へとつなげました。日本とアルゼンチンの冬の寒さの違いについて、実際の写真を見せながら説明し、「アルゼンチンの冬は信じられないほど寒く、まるで『アナと雪の女王』の世界のようだよ」と具体的なイメージを共有した上で演奏を聴いてもらいました。写真や言葉を交えながら音楽のイメージを共有したことで、児童の皆さんが情景を想像しながら真剣に耳を傾け、音楽に向き合ってくれている様子が印象的でした。音楽を「知る」よりも「感じる」時間になっていたように思います。

また今回は、共演してくださったヴァイオリニストの髙倉さんに、ヴァイオリンを初めて聴く児童も多い中で、その魅力を存分に味わえるモンティの《チャルダッシュ》を演奏していただきました。フラジオレット、グリッサンド、ピチカートといった特殊奏法を紹介しながら、導入として《スーパーマリオのテーマ》を演奏してくださり、子どもたちがとても嬉しそうな表情を浮かべていたのが鮮明に記憶に残っています。ヴァイオリンを初めて聴く児童も多い中で、子どもたちが一気に音楽に引き込まれていく様子が印象的でした。
さらに、子どもたちにとって身近な音楽として、湯山昭さんの《お菓子の世界》を使い、「聴いてお菓子を当てるクイズ」に挑戦しました。「じゃがりこ!」「ピュレグミ!」など具体的なお菓子の名前が次々と挙がり、音楽を自由に想像して楽しんでくれている様子がとても印象的でした。

中でも特に心に残ったのは、《ポップコーン》を演奏した後のやりとりです。「ポップコーンがはねているのは分かったけど、どうして途中になめらかなところが出てきたんですか?」という質問があり、そこまで音楽の中身に疑問を持ってくれたことに驚きました。「なんでだと思う?」と問いかけると、「個体から液体になった感じがした」「キャラメルを溶かして流し入れているところじゃない?」「甘くておいしいポップコーンをほおばって、幸せいっぱいな場面だと思う」と、想像力あふれる答えが返ってきました。こちらの想像を超える答えに、子どもたちが音楽を自分の感覚で受け取っていることを強く感じ、深く感激しました。
大げさかもしれませんが、人は成長するにつれて、自分を守るために周囲に合わせることが増えていきます。しかし、自分が信じたこと、感じたことが、その人にとっての「今の正解」であることに変わりはありません。幼い頃から自分と向き合い、また他者の感じ方を受け入れる経験を重ねることが、大人になったときに本当の意味で自分を守る力につながるのではないかと感じました。

また、音楽の先生からも貴重なお話を伺いました。音楽は主要五教科ではないものの、人生の中で最も長く寄り添う存在であり、一方で教育の在り方次第では、子どものうちに「好きか嫌いか」が決まってしまう側面もある。その責任の重さを自覚し、覚悟を持って丁寧に、こだわりを持って授業をしているという言葉に、私自身も音楽を届ける側としての責任を改めて感じました。
小学生の頃、体育館で室内楽を聴いた記憶が今も鮮明に残っており、「いつか自分も、あのお姉さんのように子どもたちに音楽を届けたい」と願っていました。常に音楽と隣り合わせの人生を歩んできた私にとってはほんのひとときの時間であっても、誰かにとっては一生を左右するほど特別な時間なのかもしれません。だからこそ、これからも子どもたちに多くの世界を見せられるよう、アウトリーチ活動を続けていきたいと強く感じた一日でした。
私にとっては久しぶりのアウトリーチで、子供と接することもしばらくありませんでしたので、少し緊張がありましたが、3クラスとも個性があって、こちらの方が楽しく、有意義な時間を過ごさせていただきました。
共演させていただいた稲沢さんとは1年ほど前から各コンサートでご一緒する機会も多く、お互いアドリブの即興演奏も得意とすることから、他には無い音楽の楽しみ方を工夫して演奏活動をしてまいりました。

稲沢さんのピアノコーナーでお菓子の世界を演奏されていた時、ピアノの近くで演奏を聴き、その曲がどのお菓子をテーマにした曲なのか想像する時間は、隣にいた私もとてもワクワクした気持ちになり、10歳の大切な時期にこのような経験ができることは、とても有り難く、素敵な時間であることは間違いなかったと思います。
ヴァイオリンコーナーでは、弓の毛が何の動物の毛なのかクイズしてみたり、演奏技法の紹介として、マリオのテーマを演奏したり、皆さんの近くを回って演奏してみたりなど、各児童の表情を見ながら演奏できたこと、私としても嬉しくお勉強になりました。

わたしたちのお互いの良さが生きて、何より私たちが楽しんでいる様子を伝えることができたなら、時間を共にした皆さんの過去と未来をつなぐ『今』を作ることができたのなら、とても嬉しく思います。

