大阪・関西万博ポーランドパビリオン『インプロの天才 ショパン』レポート

  • 大阪・関西万博 ポーランドパビリオン内コンサートホール
  • 2025年10月10日(土)稲沢朋華(ピアノ)・二子千草(司会)
  • 2025年10月11日(日)三重野奈緒(ピアノ)・古橋果林(司会)
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大阪・関西万博ポーランドパビリオンにてショパンの絵本を題材にしたコンサート&ワークショップを開催

2025年10月10日、11日には、閉幕間際の大阪・関西万博のポーランドパビリオンにて、PWMコンサート&ワークショップが開催されました。

1日目には2025年特級グランプリを受賞したばかりの稲沢朋華さん、2日目には2017年特級銀賞の三重野奈緒さんが出演しました。この2日間のワークショップでは、ポーランド音楽出版(PWM)発行の絵本『インプロの天才 ショパン』の世界を、ピアノと朗読でお届けしました。

(左)10/11:三重野奈緒さん(ピアノ)、古橋果林さん(司会)
 (右)10/10:稲沢朋華さん(ピアノ)、二子千草(司会)

大阪・関西万博ポーランドパビリオン内にはグランドピアノと大型スクリーンの設置された円形のコンサートホールが設置されており、毎日のようにショパンやポーランドにまつわるコンサートが開かれました。このコンサート&ワークショップは、閉幕前の最後の週末のイベントとなり、いずれの日も、会場は50席満席のお客様の熱気であふれました。

『インプロの天才 ショパン』は、ショパンの幼少期からを「人を楽しませること・その場で思いついて楽しませること」が大好きという側面を描く絵本。稲沢さん、三重野さんそれぞれが、ストーリーの展開にあわせて選曲をされ、朗読と絵本のイラストにあわせて披露し、それぞれ工夫を凝らしたステージでお客様を楽しませてくれました。

稲沢さんは、ショパンが革命時に遠く離れた祖国ポーランドへと募らせた想いを詰め込んだ「スケルツォ第1番」にかくされたポーランドのクリスマスキャロルの響きや、ショパンと同時代のポーランドの作曲家クログルスキが書いた作品「ショパン風マズルカ」も紹介するなど、ポーランドパビリオンならではのプログラムを展開しました。

三重野さんは、よく知られているノクターンOp.9-2の「エキエル版」の楽譜を使って、メロディを自由に展開させていくショパンのインプロ的な発想力を見せてくださったり、マズルカのリズムをお客様と一緒にたたいてみてから演奏するなど、会場に一体感が生まれる印象的なひとときを生み出しました。

★稲沢朋華さん演奏曲(10/10)
♪前奏曲 第7番 Op.28-7 イ長調
♪ショパン:ワルツ 変ニ長調 Op.64-1 「小犬」
♪クログルスキ:ショパン風マズルカ
♪ショパン : スケルツォ 第1番 ロ短調 Op.20
♪ショパン : 24のプレリュード 第15番「雨だれ」 Op.28-15 変ニ長調
♪ショパン:バラード 第2番

★三重野奈緒さん演奏曲(10/11)
♪ショパン : ワルツ第2番 変イ長調 Op.34-1
♪ショパン : ノクターン第2番 変ホ長調 Op.9-2(エキエル版)
♪ショパン:マズルカ 変ロ長調 Op.7-1
♪ショパン : エチュード集(練習曲集) 第12番 「革命」 Op.10-12 ハ短調
♪ショパン : 24のプレリュード 第15番「雨だれ」 Op.28-15 変ニ長調
♪ショパン:ワルツ 変ニ長調 Op.64-1 「小犬」
♪ショパン : ポロネーズ第6番 「英雄」 変イ長調 Op.53

稲沢朋華さんよりメッセージ

大阪・関西万博で演奏させていただけるなんて、本当に光栄でした。会場に集まる人の多さを目の当たりにするだけでも、自分の国のことはもちろん、自分の知らない地域や文化についても、一つでも多く知り、受け入れ、愛したいと自然と思えるような場所でした。

いつか私も、万博の場で日本のことを案内できるようになれたらいいなぁ、、、、なんて思ったのですが、「待てよ、、、、英語ができんぞ?」と、現実に引き戻されました。そんな中、ご一緒させていただいたピティナのスタッフの方々は英語でパビリオンの方々や世界中から訪れた来場者の皆さまと自然につながっていて、その姿が本当に印象的でした。対する私は、心をつなぐ架け橋どころか、「センキュー、、!^o^」を繰り返すだけのロボット状態になってしまい、、、、大反省。語学も本気で頑張ります。

さて、今回の演奏会では、これまであまり深く向き合ってこなかったショパンの作品を準備することになり、リハーサルから本番に至るまで、新鮮な発見の連続でした。このパビリオンでの演奏会の軸となっていた絵本『インプロの天才ショパン』に描かれているショパンは、私がこれまで抱いていたイメージとは大きく異なる存在で、その姿に合わせてピアノに向き合うことで、見えてくるショパンの世界も大きく変わっていきました。内気で繊細で、どこか物憂げ。そんな印象を持っていたショパンですが、実はピアノの先生から「ショパンくん、君はピアニストより芸人の方が向いているよ」と言われていたほど、周囲を笑顔にしてしまう天才だったそうです。

愛する祖国ポーランドが侵略され、二度と帰ることが叶わない現実を背負いながらも、曲を書き続け、サロンでは笑顔で人々を楽しませていたショパン。本当の想いを言葉にできなかったからこそ、楽譜の中には、ショパン自身にしかわからない“本当のショパン”が息づいているのだと感じました。

ちょうどそんな中で、私がピティナ特級に挑戦していた頃に出会った、あるアーティストの言葉を思い出しました。「自分の国じゃない言葉をお借りして使うということには、リスペクトが必要だ」という言葉です。

当時も心に残っていましたが、クラシックのピアノ弾きとして作品と向き合う今、その重みをより強く感じています。どの作曲家の作品を演奏するにしても、私たちはその作品をお借りしながら、多くのことを勉強させてもらっているのだと思います。そう頭では分かっていても、正解は作曲者本人にしかわからない。だからこそ、「これはこうだ」と言い切ることはできず、迷いながらでも何度も試行錯誤し、あふれる情報を吟味しながら、尊敬と感謝を胸に演奏を続けていくしかないのだと感じました。、、、、こうして言葉にすることは簡単なのですが、実際に音楽で体現するのはとても難しく、きっと一生をかけても足りないほど時間のかかることなのだと思います。だからこそ、焦らず、ゆっくり、慎重に音楽と向き合っていきたいです。「本当にこれが、ショパン自身が求めていたものなのか?」と問い続けながら、さまざまな角度から吸収し続けることの大切さを、この一冊と今回の経験から深く学ばせていただきました。

そして、ポーランドをこれほどまでに深く愛していたショパンの姿に触れ、知っているようで実はまだほとんど知れていない日本のことを、私自身ももっときちんと知っていかなければならないなと、強く思いました。自分自身を見つめ直す、このような貴重な機会をいただき、本当に感謝の気持ちでいっぱいです。本当にありがとうございました。

稲沢朋華

三重野奈緒さんよりメッセージ

大阪・関西万博ポーランドパビリオンという特別な場所で演奏の機会をいただき、心より感謝申し上げます。

ポーランドに留学し、現地で学び、暮らした時間は、私にとって音楽家としての原点のひとつです。その大切な国のパビリオンで演奏させていただけたことは、言葉では言い表しきれないほどの喜びでした。

今回の公演では、絵本『インプロの天才ショパン』の世界観を通して、これまでとはまた違う角度からショパンの姿に触れることができました。楽譜の向こうにいるショパンという人物がぐっと近くなり、繊細さや孤独だけではない、周囲の人を惹きつけ、心を和ませるあたたかさを持った存在として立ち上がってくるように感じられました。留学中、街の空気や言葉、人々の気質に触れるたびに、ショパンの音楽はこの土壌から生まれたのだと何度も思いました。そして今回あらためて、そのポーランドという国を背負った一人の人間としてのショパンを想像しながら演奏できたことは、私にとってかけがえのない経験となりました。

作品を演奏するということは、作曲家の人生や祖国への想いに耳を澄ませ続けることなのだと思います。答えにたどり着くことは簡単ではありませんが、それでも問い続け、敬意と感謝を持って音にしていく。その姿勢を、これからも大切にしていきたいと強く感じました。このような貴重な機会を与えてくださったすべての皆さまに、心より御礼申し上げます。本当にありがとうございました。

三重野奈緒

【主催】PWM Edition(ポーランド音楽出版社) PAIH
【協賛・後援】

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