越部直人さん(Yカテゴリー2位) グランミューズ部門入賞者インタビュー
入賞者記念コンサート
アルベニス:イベリア第2巻 第6曲 「トゥリアーナ」
ブラームス:ピアノ・ソナタ 第3番 ヘ短調 Op.5 第5楽章
少し前のことになりますが、コンペティションでご入賞されたときのお気持ちをお聞かせください。
これまで何度か全国大会まで進んだことがあるのですが、いつも思うような演奏ができずに悔しい思いをしていました。そのため今回こそは、自分が心から満足のいく演奏をしたいという気持ちで本番に臨みました。当日の演奏は、決して完璧だったとはいえないものの、自分の音楽を精一杯表現することができたと思います。気持ちよく演奏できたという達成感に加え、思いもしなかった結果をいただけて、本当に嬉しかったです。
コンペティションの選曲理由を教えていただけますでしょうか?
スペインのピアニスト、ルイス・フェルナンド・ペレス氏のレッスンを受ける機会があり、スペイン音楽の作品に興味を持ち始めたのがきっかけです。全国大会の後、コンペの曲も見ていただきました。トゥリアーナを選曲した理由は、スペイン音楽特有のリズムやサウンドの中で動く詩的な旋律との掛け合いが美しいと感じたからです。華やかで、技巧的にも大変難しい曲ですが、弾いているうちに楽しさが込み上げてきます。曲を仕上げる時には、組曲「イベリア」の管弦楽編曲版やファリャ、トゥリーナなどスペインの近代作曲家のオーケストラ作品を聴いて、カスタネットやギターなどピアノ以外の楽器から音色を取り入れようと試行錯誤していました。
レッスンには通われていますか?
月に2回ほど通っています。佐々木恵子先生とは10年来の付き合いになります。進路の相談に乗ってくださったり、ピアノ以外の面でもいつも大変お世話になっており、とても感謝しています。
学業ではどんなことをされていますか?
大学では文学部に所属しています。今は哲学や宗教、歴史や言語など幅広い分野にわたって勉強していますが、いずれはこれらの分野と、自分が長く学んできた音楽とをうまく結びつけて研究に取り組みたいと考えています。
ピアノ以外にご興味があることは何ですか?
とても抽象的ですが、綺麗な色の組み合わせや色合いを見たり考えたりするのが好きなので、服や写真にはとても興味があります。昔から筆記具など文房具が好きで、身近なものを使っていろんな色や素材、デザインを楽しめることに魅力を感じていました。今でも小洒落た雑貨屋さんとかカフェに行くと気持ちがルンルンしてしまうのはこの文房具趣味の影響なのかなと思ったりしています。
普段暇な時は、音楽を聴いたり、本を読んだり、YouTubeでお笑い系の動画を見たりして過ごしています!
普段はどれくらいピアノを練習されていますか?頻度、場所、時間などお聞かせください。
平日は、授業やバイトの予定によってまちまちですが、2時間程度は練習できるようにしています。とはいえ、曲数を多く抱えていると、なかなか思い通りに練習を進めることが難しいです。コンクールなど、大事な本番の前は特に、何も予定を入れない日を決めて、その日に集中して練習に取り組めるよう努力しています。
好きな作曲家、演奏家、曲についてお聞かせください。
ショパンやラフマニノフの甘美で叙情的な曲は昔から好きでしたが、それとは対照的に、カプースチンやバルトークのような、民族音楽やジャズの要素を含んだリズミカルな曲調の音楽もとても好みです。最近では、メンデルスゾーンやシューマン、ブラームスを中心に、ドイツロマン派の音楽の魅力に惹かれるようになりました。ブラームスについては、ソナタや後期の小品集などのピアノ曲はもちろんのこと、交響曲やドイツ・レクイエムなどの管弦楽曲も好きでよく聴いています。ブラームスの音楽は、心の深奥に語りかけるような内面性を持っていて、どこか哲学的な問いに触れているような感覚があります。自分にとってまだまだ未知の世界が広がっている彼の音楽を、これからより深く勉強していきたいと思っています。
好きな演奏家は、アンドラーシュ・シフとラドゥ・ルプーです。また、ピティナをきっかけに好きになるピアニストもたくさんいて、特に亀井聖也さんと沢田蒼梧さんは2019年の特級で演奏を聴いてからずっとファンです!
ピアノを演奏する際に心掛けていることは何ですか?
常に歌を届けることです。音楽の本質は歌、声にあると思っていて、もちろんピアノのような器楽曲で声を出すことは出来ないけれど、声をのせるように演奏することが大切だと思っています。歌のある演奏というのは人の心に何か訴えかけることができるし、言葉がなくても言葉以上のものが届けられると信じています。
入賞者記念コンサートの曲目の選曲理由を教えてください。
ブラームスのソナタ3番を初めて聴いたのは、昨年の3月です。それまで、ブラームスの作品にはあまり触れてこなかったのですが、初めてコンサートでこの曲を聴いた時、その尊いほどの美しさに聴き惚れてしまいました。曲の隅々から満ち溢れる成熟した雰囲気とは裏腹に、この作品が弱冠20歳のときに作曲したものであると知った時は本当に驚きました。この曲を演奏することは、今年で20歳を迎える自分にとって大きな挑戦といえますが、大学4年間でこの作品全体の理解を深めていくとともに、音楽を通じて人間的にも成長することができたら思っています。
入賞者記念コンサートへの意気込みを一言お願いします!
このような舞台で演奏できる機会をいただけて身に余る光栄です。会場まで足を運んでくださるみなさまの心に少しでも残るような演奏をお届けすることができたら嬉しいです!