特級グランド・コンチェルト2023:阪田 知樹さんインタビュー

特級グランド・コンチェルト
阪田 知樹さんインタビュー
敬愛するラフマニノフの作品に臨む
グリーグ、シューマンと一つの線を繋ぐラフマニノフ

今回阪田さんが演奏するのは、上演回数の少ないラフマニノフの協奏曲第1番。今年はラフマニノフの生誕150周年であり、阪田さんもラフマニノフの協奏曲全曲演奏会を予定されていますが、今回この作品を選曲された意図をお聞かせください。

今回、私の他に谷昂登さんはグリーグのピアノ協奏曲、桑原志織さんはシューマンを演奏されます。グリーグはシューマンの過ごしたことのあるライプツィヒで勉強したということもあり、協奏曲にはシューマン作品を意識している要素が感じられます。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第1番も同じく、グリーグのピアノ協奏曲への意識を感じます。そのため、シューマン、グリーグに続いてこの作品を配置することで、一つの線としてつながるのではないかと思ったんです。

ラフマニノフのピアノ協奏曲第1番は、第2番と第3番よりも上演回数こそ少ないものの、ラフマニノフらしい美しい旋律が満ちていますし、ピアニスティックでヴィルトゥオーゾ的な技術もたくさん盛り込まれています。聴いてくださる皆さんに楽しんでいただけるのではないかと思い、選曲しました。

阪田さんは作品に向かう際、まずは多くの研究を重ねてから演奏に臨まれる印象があります。今回は、研究によってどのような肉付けを行なっているのでしょうか。

この作品はラフマニノフにとって作品1であり、学生時代に第1楽章の大部分が完成されているのですが、その後大きく3回に分けて改訂が施されています。

改訂版ごとに楽譜を見比べてみると、同じ旋律部分の箇所でも、その伴奏部分や対応する別の旋律が、版ごとに全然違ったりするんですね。今回は3回目に改訂された版を演奏するのですが、これはピアノ協奏曲第3番の後に完成されたものなので、事実上3つ目の協奏曲になるわけです。

改訂前と見比べるだけでなく、「第2番や第3番と構造が似ているな」と別作品とも比較することで、彼の作曲のアイデアの変化も感じられて興味深いなと思っています。

ピアノ協奏曲第1番の場合、改訂前後でどのような変化が見られますか。

改訂した後の方が複雑なハーモニーや旋律が盛り込まれていて、秘めた情熱がうごめいているような、彼の心のひだのようなものを感じます。やはり学生時代に書かれた版は、若さゆえの真っ直ぐさや、尊敬していたチャイコフスキーのようなロマンチック側面が見えてきます。そこから年を重ねて、ラフマニノフは改訂後すぐに自国を追われてアメリカに渡って……さまざまな経験や感情が、こうした変化が生まれたことに起因していると思います。

対話が魅力的なピアノ協奏曲

過去のレパートリーからみても、阪田さんにとってラフマニノフは大切な作曲家なのではないかと思います。改めて、阪田さんにとってラフマニノフはどんな存在なのか教えてください。

ラフマニノフはピアノ以外の他の器楽作品や室内楽曲も残していますが、やはり作曲家としての才能を世に知らしめたのは、ピアノ協奏曲ですよね。それに、ラフマニノフは作曲家だけでなく、優れたピアニストでもあり、指揮者としても素晴らしい人物。総合的な音楽家として、特別な位置づけにある人だと思っています。私自身も作曲をしますし、昨年は指揮者としても活動したため、そういった総合的な音楽家は、自分の目指す一つの理想像。とても尊敬しています。

それに、彼の作品には人の心を打つ旋律がたくさんあります。その一方で、通俗的に受け止められる側面もある。しかし、よくよく彼の作品をみていくと、ラフマニノフは構造的にも非常に考え抜いて緻密に曲を書いていることがわかってくるんです。美しい旋律や華やかさも魅力的ではありますが、そうした構成的な面から見ても、音楽の大家と呼ばれるベートーヴェンやシューマンに劣ることはないと考えています。

今回は、ピアノ協奏曲を3つ披露する珍しい公演です。改めて、阪田さんの思うピアノ協奏曲の魅力を教えてください。

作品のタイプによると思いますが、ピアノという楽器はとても雄弁でありながら、オーケストラも伴奏に徹するというわけはなく、常に対話をするイメージですよね。今回演奏される3つの協奏曲、いずれもその特徴があると思います。そういったピアノ協奏曲の魅力を味わい尽くせる1日になるのではないかと思います。

ラフマニノフのような音楽家を目指して

阪田さんは2014年からドイツのハノーファーにお住まいです。現地での暮らしはいかがでしょうか。

ハノーファーは、大戦時に街の6割ほどが爆撃されたため新しい建物が多く、一方でその周辺はレンガで作られたような旧市街も残っていて、新旧が混ざり合っている都市です。

北の方にあるからかいつも空はどんよりしていて、晴れの日は少なく雪も降ります。だからこそ、ドイツの作曲家の中にある「春」というものへの理解が深まりました。冬はとても寒くて長いから、春を心待ちにしている人が多い。春が来ることに大きな意味があるんです。

それにこの町では、朝の5時半くらいから鳥の鳴き声がよく聞こえます。クラシックにも鳥の鳴き声を思わせる音色が多く登場しますよね。他にも美術館に行ったり、散歩をしたりして、こうした場所に身を置くだけでも、町からインスピレーションを得られているなと思います。

将来はどんなピアニストになりたいと考えていますか?

私はラフマニノフのようなロシアものはもちろん、ベートーヴェンのような古典派や、フランス作品も好きです。いずれにしても、自分が大事にしたい、良いと感じる作品の魅力を伝えられる音楽家でありたいです。

演奏家は、作曲家の書いた作品を届けるメッセンジャー。彼らの残してくれたすばらしい音楽を、一人でも多くの人に届けたいです。

私は自分で作品を書くのも好きなので、作曲活動もしたいです。先ほどもお話ししたように、ラフマニノフのような総合的な音楽家になるのが最も理想的ですね。

最後に、来場者にメッセージをお願いします。

1度で3曲ものピアノ協奏曲を聴ける機会はなかなかありません。どの作曲家もたくさんのピアノ作品を残しているため、今回を機に「他の作品も聴きたい」と思っていただけたらいいなと思います。ザ・シンフォニーホールという最高の空間で、オーケストラとの共演だからこそ感じられる音の厚みや色彩感を皆さんと共有できたらうれしいですね。

インタビュアー・文:桒田 萌 Moe Kuwada

▼ コンサート詳細 ▼
特級グランド・コンチェルト

主催:一般社団法人全日本ピアノ指導者協会/ザ・シンフォニーホール

シンフォニーホール40thロゴ
ピティナロゴ
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