十代の演奏家Vol.20インタビュー~森本隼太さん

十代の演奏家Vol.20
インタビュー~森本隼太さん

開催直前!5/7(土)13時 東京・浜離宮朝日ホールで開催される「十代の演奏家シリーズVol.20」に出演する森本隼太さんに、コンサートにかける思いや留学生活についてお話を伺いました。


どのようなイメージで今回の「十代の演奏家」のリサイタルプログラムを選びましたか?

僕は本当に今回のプログラムにとても満足しています。シューマンの「シンフォニック・エチュード(交響的練習曲)」はとても難しいですが、この曲を通して今自分が感じていることを表現できると思いましたので、この曲を中心に各作曲家の重要な作品を選びました。作品ごとにそれぞれ個性があり、違うタイプの弾き方や音色が必要とされますので、どの曲も、今まさに勉強したい作品です。

シューマンの「シンフォニック・エチュード」には、今回初めて取り組みます。以前から、シューマンの規模の大きな作品に取り組みたいと思っていて、「クライスレリアーナ」「幻想曲」など色々あるなかで、どんどん変化していく変奏曲的なこの作品が、自分にすごく合っているなと思って選びました。遺作変奏には新しいエディションが3つくらいあって、どの順番でどのように弾くか、現時点ではまだ決めていないです。この曲については、自分の中でコンセプトを据えるところまで行っていないので、ここでまだその感じを言えないのですが、少しずつ勉強していこうと思っています。

ベートーヴェンのピアノソナタ第13番 は、去年の12月から取り組んでいる曲です。今回のコンクール(ヘイスティングス国際)でモーツァルトのコンチェルトに1月から取り組むことで「自分の中で消化する早さ」を学びましたので、その勉強を活かしたいです。もちろん時間をかけて勉強するのも大切なことだと思っていますので、長く深めていきたい作品です。

フォーレのノクターンやショパンの幻想ポロネーズも合わせて、今回のプログラムは、全部「幻想的」だという共通点があると思います。これまで、ゲザ・アンダの「交響的練習曲」やウィリアム・カペルの「幻想ポロネーズ」などを聴いて得てきたインスピレーションも大切にしつつ、今は「自分と向き合う時間」「作品そのものと向き合う時間」にしています。今の自分の100%を出せる音楽を選びましたので、それぞれの作品の個性を最大限に引き出して演奏したいと思います。

浜離宮朝日ホールのような規模の会場での東京でのフルリサイタルは初めてですか?

はい。関西では兵庫県立芸術文化センターでリサイタルをさせていただきましたが、東京では初めてですので、どのように受け止めていただけるか、とても楽しみです。リサイタルという形でお客様にどういうふうに伝わるか、どういうふうに伝えるべきかを僕自身が改めて考えるチャンスなので、「自分が表現したいことをどのように出すか?その曲が何を伝えているのか?」という構想をしっかり作り、パフォーマーとして、僕自身が何かを訴える力を準備して臨みたいと思っています。

留学生活などについてもお伺いしたいと思います。音楽を表現するということに対するスタンスは、留学してから変わりましたか?

自分のスタンスそのものはあまり変わっていないと思います。基本的に「伝えたい」という想いは変わらないです。ただ、音楽のバックグラウンドにより詳しくなればなるほど、その伝えたい音楽の<深さ>が変わってきたように思います。

音楽に限らず、自分に加わった変化とはどのようなものでしょう?

イタリアでの生活を通して、「一人でやっていかないといけない」というのがまずは大きな変化でした。人間関係なども、もともと自分は得意なほうではありませんが、自分で対処していく必要がありました。周りに影響されて哲学や美術の本を読んだり、お客さんにも仲のよい方ができたり、すべての出会いが経験になっています。例えば最近では、ヘイスティングスのコンクールの後に出演したBBCラジオのアナウンサーの方が素晴らしい雰囲気を持っていて、そうしたちょっとした出会いからも色々と感じること、学ぶことがあります。その意味で、人としてどんどん成長しているように思います。

ローマで師事しているウィリアム・ナボレ先生の指導はどのようなものでしょうか?

基本的には、彼の「倫理観」を学ぶ、ということです。ナボレ先生はアメリカ寄りの考え方を持った方だと思いますが、いずれにせよ、昨年の夏にローマに来たばかりの僕にとっては、まずは西洋の文化に浸るということ自体が初めてだったので、その考え方を一気に吸収していくような時間があり、本当に影響を大きく受けました。今はそれが落ち着き、哲学などもある程度学んでみて、自分のアイデンティティの大切さなども感じるようになってきています。
ピアノ以外では、先生と生徒というより、独立した人間同士で意見を交換する、そういうスタイルです。レッスン以外の時間では、「友達」といってもよい関係性かもしれません。ただ、そうは言っても、生きてきた時間の長さがまったく違いますし、歴史もものすごく詳しいですし、学ぶことはたくさんあります。「一緒にいる時間をできるだけ大切にしよう」と思いながら、できるだけ良い影響をたくさん受けられるようにと思いながら学んでいます。

2018年2月、初めてナボレ先生のレッスンを受ける

翻って、日本で受けてきた教育について印象的なことはありますか?

今の僕の音楽は、基本的に関本昌平先生に教わってきたものがすべてベースになっていて、先生に本当に感謝しています。いつでも全力でサポートしてくれましたし、音楽的にも、僕の行きたい方向へ全力で導いてくださいました。ナボレ先生も、素晴らしい教えをこれまで受けてきたねといつも言ってくれます。
小学校でも、すごく良い先生たちに出会ってきました。小学校、特に5~6年生で出会った先生方は、みんな「仏様」みたいな素晴らしい方たちでした。自立、自己形成、そういった事柄を僕たちに提示してくださり、授業でも、自分たちで具体的に進めていくものや、100人くらいのお客さんに向けて授業をするもの、プレゼンするものなどたくさんの工夫があり、一人ひとりの個性や自主性に重きを置いた素晴らしい教育を受けた2年間でした。人間的な影響はその期間に大きく受けていると思います。今になって、小学校高学年のその期間の重要さを身にしみて感じます。

今は、どんなことに興味がありますか?

イタリアに来たばかりのころは、経済に興味を持っていた時期がありましたね。YouTubeでグロービス(※ビジネススクール)の動画をめちゃくちゃ見たり、コミュニケエーションに関することを学んだりしていました。たぶん、イタリアに来たばかりでうまくいかないように感じていた時期だったのかもしれません。そういった分野の本を色々と読んでいました。 昨年の夏ごろは、何だったかな。たしか文学に興味があったり、モダンな哲学にはまったり、とにかく変な本をいっぱい読んでいましたね(笑)。最初のきっかけは三島の「金閣寺」で、彼の思想はどんなものかなということを調べるうちに、関係する哲学や倫理に興味が沸いたりとか。今は少し落ち着いて普通の文学を読んでいるかな。ミケランジェロについての本を読んだ時期もありました。ずっと固定はしていなくて、その時に気になったものを読むという感じです。

多様な興味を持つようになったのは、どういう影響が大きいですか?

僕はもともと、上賀茂神社(※世界遺産に登録されている、京都で最も古い神社のひとつ)のあたり、すごく綺麗で雰囲気のある場所で生まれました。その後、よくエピソードでお話しさせていただく歳の離れた60代のご夫婦との出会いがあり、関本先生との出会いがあり、また中学生では加藤さん(聞き手)、そして今はナボレ先生という素晴らしいメンターに出会っています。価値観が形成されて、自立していくそれぞれの時期の節目節目で、美しい場所で暮らし、ある程度道を示してくれる人たちがいたということは、自分にとってまず感謝すべきことだったと感じています。

また、改めて考えると、いま僕の周りに自分と同じ世代の人がいないというのが大きな影響を与えているかもしれません。40代以上の、各分野で既にそれぞれの経験を持った方ばかりと話していますね。例えば先日は、アパートの最上階の方に夕食に誘っていただいたんですが、そのときに彼らが自然保護のNGOの団体で活動していると聞いてどのようなものか調べてみたり、歴史学の教授だった方が遊びにいらしたり、そういった方々にひっついて色々と一緒に話をしていると、どんどん興味が広がっていくのを感じます。子供の頃から楽しんでいたようなテレビのエンターテイメント番組を見ても、以前のようには面白く感じなくなったということに、自分でもちょっとびっくりしているというか、それが自分の変化、成長なのかなと思いました。

たくさんの興味深いお話をありがとうございました。5月のリサイタルを楽しみにしています。


聞き手:加藤哲礼(育英室長)
取材日:2022年3月11日
場所:ローマ(zoom)

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