アクセスパス・インタビューVol.7:ピアノを演奏する人にこそ聴いて欲しい

ピアノを演奏する人にこそ聴いてもらいたいコンサートがある。
そんな思いからスタートしたアクセスパス。
秋はクリスチャン・ツィメルマン、レイフ・オヴェ・アンスネス、ジャンルカ・カシオーリ、アレクセイ・ヴォロディン、ゲルハルト・オピッツなどの一流ピアニストの公演がついにアクセスパスに加わった。「ピアニストの演奏を聴くこと」は裏を返すと「ピアニストが演奏を聴かせること」でもある。ピ アニストは聴衆に何を望むのか。今回は少し視点を変えて、自身に献呈されたピアノ協奏曲を多くの人に演奏してほしいと語るツィメルマンのインタビューを紹介。
クリスチャン・ツィメルマン「約束のコンチェルト」にこめる想い

「世界中で演奏します」~初演から20年、
作曲者の生前に果たせなかった約束が、今実現する。
それはポーランドが生んだ偉大な作曲家が、
ツィメルマンのために書いた唯一のピアノ・コンチェルト。

~ルトスワフスキの協奏曲について~

私の故郷ポーランドの生んだ偉大な作曲家ルトスワフスキ。1977年にその尊敬する彼から、「あなたに弾いてもらいたいピアノ協奏曲を作曲したい」と言われたときは、とても名誉なことに感じ喜んでいました。

しかし、その後連絡はなく、もうこのことは忘れてしまったのかなと思っていた1988年になって、突然「曲ができました!」と電話があったのです。とても驚きました。と同時に嬉しかったことを覚えています。
彼にはピアノ協奏曲を作るにあたり、ゆるぎない「姿勢」「技術」そして「知識」がありました。ひとつひとつのモチーフに緻密な哲学があり、それを積み重ねることによって大きなものを構築してきたと言えるでしょう。こうした基盤があったからこそ、常に音楽的な流れが途絶えることなく自由になれた、ということを演奏していても感じます。

W.ルトスワフスキ(1913~1994)
~完成後20年を迎えて~
2006ピティナ・ピアノフェスティバルの様子

作品の完成から20年。この作品を初演したことが、昨日のことだったように感じています。そして私がルトスワフスキさんと交わした「この作品を世界中で演奏します」というある決意にも似た約束を、ようやく果たせることを心から感謝しています。
今年、この作品を世界各地で演奏するのは、私がこの作品に対して「責任」を感じているからです。この作品は私にささげられている、私にとっては最高のプレゼントであり、言葉に言い表せないくらいの気持ちです。ですから、この作品をより多くの人に聴いていただきたいのです。ルトスワフスキさんとの約束を果たしたいという責任感の根底には、「私がこの作品が好き」という前提があってのことです。このことはしっかりとお伝えしたいことです。
そしてまた、私はこの作品が私に捧げられているからといって「私のもの」とは思っていないことを、はっきり申し上げたいと思います。この作品を私が演奏するのは、多くの人に聞いてもらいたいという気持ちと同時に、多くのピアニストに演奏してもらいたいという気持ちからでもあります。確かにこの作品を修得するには、モーツァルトの協奏曲5曲分、ベートーヴェンの協奏曲だったら2曲分くらいの練習と時間を要するかもしれません。しかし同時に、この作品はそれだけの価値がある協奏曲だということも知ってほしいのです。

ルトスワフスキさんは彼自身の「夢」を話してくれたことがあります。それは「自分の音楽を、現代音楽という枠に閉じ込めないでほしい。『現代音楽の夕べ・・・』と名づけられたコンサートでしか演奏されないのではなく、ベートーヴェンやモーツァルト、ブラームスなど、通常のコンサートのレパートリーに入れてほしい」と話していました。今回チョンさんとともに、そのようなプログラムの、いわゆる「通常」のコンサートでこの作品を演奏できることをとても嬉しく思っています。

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