船生弘親さん(A1カテゴリー1位) グランミューズ部門入賞者インタビュー

入賞者記念コンサート

- シマノフスキ:《メトープ-3つの詩》 Op.29より 第1曲「セイレーンの島」
- ブラームス:《7つの幻想曲集》 Op.116 より 第3曲「奇想曲」 第6曲「間奏曲」
- シューベルト:ピアノ・ソナタ 第18番 D894 Op.78 「幻想」
コンペティションでご入賞されたときの率直なお気持ちをお聞かせください。
結果については冷静に受け止めておりましたが、私が大切にしてきた音楽表現の方向性が評価されたことは大きな励みとなりました。
祝賀会の席で、審査員長の金子一朗先生より直接講評を伺う機会を得られましたことは今後につながる有意義なひとときでした。
コンペティション出場の動機、選曲理由を教えてください。
10月にはニューヨークのカーネギー・ホールでの演奏が決まっており、そこで演奏する作品を1曲でも舞台に乗せたいという思いがありました。
一方で、全国大会の1週間後に別のコンクール本選を控え、ブラームス《Op.116》を全曲演奏するプログラムであったため、演奏時間の規定に沿う形で選曲しました。
コンクール向きとは言い難い構成で、評価は審査員の先生方に委ねる——ある意味賭けのプログラムでした。
普段はどれくらいピアノを練習されていますか?お仕事や学業と両立してピアノの練習をするために、気をつけていることがあれば教えてください。
常に多くのプログラムを抱えながら、同時に新しい作品を読み続けること。
「タフ」に勉強することを最も大切にしています。
大晦日、皆さまご覧になりましたでしょうか。
松本和将先生がベートーヴェンのピアノ・ソナタ全32曲を、約13時間にわたり演奏されました。しかも、そのわずか1か月後にはオール・ラヴェル・リサイタルを控えていらっしゃいます。
また長瀬賢弘先生は昨年、日本人として初めてプロコフィエフのピアノ作品全曲演奏を成し遂げました。
もはや「タフ」という言葉では言い尽くせない世界です。
そうした先生方の貴重なお時間を頂戴するに足る価値が、今の私にあるのか――常に自問するようにしています。
その問いを立てることで、「今、何をすべきか」が自ずと見えてきます。これは音楽に限らず、仕事においても同じなのです。
一ヶ寺の住職という立場において、一日をピアノだけに終始することはできません。
だからこそ、あらゆることにおいてまず「今すべきこと」を自覚し、日々の積み重ねとその継続を、生活の軸としています。
(とはいえ、まだまだ修行の途上ゆえ、10日に1度は見事に心が折れています…しかし立ち止まる時間はないのです…)
ピアノを始めたきっかけは何ですか?また、現在までピアノを続けている/再開された理由を教えてください。
二人の姉がおり、姉たちはそれぞれ三歳前後からピアノの教育を受けていました。そのため、私が生まれたときには既にピアノと音楽が共にありました。
「絶対に人並みではやめさせない!」という——今の教育観からすると時代錯誤にも聞こえる——母の教育方針の賜物(!)で、ピアノを始めて二年ほどで、寝ても覚めてもピアノのことばかり考えるほど、私にとって大切な存在となりました。
勉学や稽古事を存分に励むことのできる環境を整えてくれた両親、祖父母、曾祖父母には心から感謝しています。
なお、ピアノ再開に至る経緯につきましては、2025年ピティナ・コンペティション結果特集号の入賞者コメントをご覧ください(宣伝)。

入賞者記念コンサートの曲目の選曲理由を教えてください。
10月に拝聴した松本和将先生のオール・シューベルト・リサイタルが、今回の選曲に至る最大の理由です。
当初は、華やかさを意識してリスト《ダンテ》、あるいは10月当時ショパン・コンクールの影響から《幻想ポロネーズ》を候補に、改めてこの2曲を読み直していました。
しかし、先生のあまりにも深く美しいB durのソナタに、演奏後もしばらく客席から立ち上がれないほどの感銘を受け、私自身もシューベルトに本格的に向き合おうと決意しました。
生涯をかけて学びたいと願う作品を、心から尊敬し憧れ続けてきた先生方のもとで学べることは、何ものにも代えがたい喜びです。
(…しかしレッスンの度に心はしっかりと折れている…)
入賞者記念コンサートへの意気込みを一言お願いします!
これまでの人生の中で培ってきた音楽や作品、そして人の心と誠実に向き合うことの大切さを改めて日々実感しています。
今回のコンサートでは、作品そのものが持つ時間や呼吸、情景を丁寧に紡いでいきたいです。一音一音に真摯に向き合い、静かに、しかし確かな想いをもってお届けできれば幸いです。
そして、聴き手の皆さまにとっても、それぞれの時間や記憶と重ねながら音楽と自心と向き合う場となれば、これ以上の喜びはありません。
グランミューズ部門のへの参加は、ありがたいことに年々増えています。大人のピアノ学習の継続的な発展のため、グランミューズ部門へ初挑戦を検討している方へメッセージをお願いします。
仕事や家庭、さまざまな責任を担いながら、限られた時間の中でピアノに向かうことは決して容易ではありません。それでも鍵盤に触れ続けるという選択そのものが、すでに尊い一歩だと思うのです。
2017年、約8年間ピアノから離れていた私は、再び舞台に立つ機会としてグランミューズ部門を選びました。幸いにも初めてのエントリーで全国大会まで進むことができましたが、その経験は結果以上に、「舞台に立つとは何か」「音楽を聴く側に委ねるとはどういうことか」を深く考える契機となりました。
その後しばらくグランミューズからは距離を置き、さらにコロナ禍によって演奏の機会が大きく制限される中で、ピアノとの関係そのものを見つめ直す時間を得ました。演奏を続ける意味や、舞台に立つ意義について思索を重ねる日々だったように思います。
振り返れば私は、グランミューズをはじめとする様々なコンクールの舞台を通して「聴衆に育てていただく」という言葉の本当の意味を学んできたのだと思います。
すべてのご縁に心から感謝申し上げます。
舞台に立つことでしか得られないものがあります。
その一つは、音楽が聴衆の中で生き始める、その瞬間に立ち会えることです。
なぜ偉大な作曲家たちは、音楽を楽譜に記し、後世へと託したのでしょうか。
なぜ音楽家たちは、舞台に立ち続けるのでしょうか。
仏教も、あらゆる宗教も、経典を残し、そして伝える人々がいます。
そこには、決して失われてはならない大切な意味があるのだと思います。
どうか、音楽を心から愛するなら、躊躇せず舞台に立ってください。
そして、音楽と共に生きるその尊い時間こそが、誰かの人生に静かな豊かさをもたらすことを、心より願っております。
南無大師遍照金剛 合掌


