シンフォニー・ブランチ10回記念インタビューリレー!第2弾:岡原慎也先生
「シンフォニー・ブランチコンサートVol.10」の出演者ピアニスト3名に連続インタビュー。
インタビュー第2弾は、ピアノ協奏曲のオーケストラパート(第2ピアノ)で共演の岡原慎也先生に、リストについて語っていただきました。
実は、これまで、それほどリストの作品を弾いていたという訳ではないのですよ。学生の頃は、バラード2番やパガニーニ練習曲、超絶技巧練習曲くらいだったかなあと思います。
それはさておき、「リスト」で大切なことは、実は、表面的な超絶技巧や派手な音楽といった部分ではなく、その後ろにある宗教とかストーリー。意外にそういうところが深い人です。絵画などで見るリストは、女性に囲まれて、よくモテる人、という先入観があるけれど、実はバックグラウンドがとても奥深い。
師であるカール・ツェルニーの日記にもあるように、リストは、子どもの頃から宗教への信心が深かったー"リストが10歳でレッスンに来たとき、後ろで待っている間、ずっと十字架を握りしめていた・・・"と。ものすごく信心深く、だからショパンとも気が合ったのです。お互いに尊敬し合っていたんですね。
その点が、まさに我々の弱いところです。この普段暮らしている日本の中では、宗教的、歴史的、哲学的なバックグラウンドがない、という難しさです。バラード2番を訳わからずに弾いていた高校時代には、今なら知っていること、この曲はギリシャ神話の「ヘーローとレアンドロス」の物語が背景にあるとか、そんなことを言われてもピンときませんでした。
ドイツでは、例えばベートーヴェンの4番コンチェルトにしても、2楽章もそれこそギリシャ神話の冥土巡りの話ですし、死んだ奥さんを迎えにいくのにふりむいてはいけない。(でもたいがいふりむくんですけどね(笑))。そういう話にちなんでいるということが理解されている。だけど、我々の住んでいる文化背景では非常に分かりにくいものです。
リストはもともと信心深かったので「波を渡るパオラ・・」や「小鳥に説教するアッシジ・・」の聖フランシスコなど、そういうバックグラウンドが当たり前にあるのです。
我々が、超絶技巧とか、指の動きとか、きらびやかな音楽とかにばかり目を向けていると、落とし穴があるんじゃないかと思います。
僕は両親がクリスチャンだったこともあり、割とそうした違和感がありませんでしたが、それはもちろん「改宗しなさい」とかいう話ではありません。全く知識がないところでは難しいだろうから、まずは知りなさいよ、と。キリスト教とは何ぞや?と問い、聖書を読んでみるとか教会にいってみるとか。「オーベルマンの谷」も文学が背景にあるわけで、せめて本を読んで背景について理解を深めるとか・・・。
そういうことを繰り返すことで、だんだん彼らの世界観が体感で理解できてくる。そういうものが、ギリシャ神話にしろ、宗教的なものにしろ、リストの理解にとって実は一番大切な事なのではないでしょうか。
"弾く"ことについては、例えば、リストは難しいけれどブラームスよりは弾きやすい、とか、そういうことはありますよ。リストやショパンはピアニストでしたから、手の形が合う人であれば、あるところを過ぎるとわりとすっと弾けるんですよ。そういう意味ではブラームスというのは非常に弾きにくい、職業ピアニストではなかったのでね。
皆さんがリストに対して持っている様々な先入観・・・。でも、実はリストには深いものがある、宗教的なものが隠れているということを理解すること。
弾いただけ、征服しただけで終わってしまうと、つまらない音楽になってしまうし、本当にリストを弾いていることにはならないのです。
逆に、「知る」ことから入るほうが、リストの本質をより理解できるのではないかと思いますね。
“楽しませて下さい”ですかね!
実は去年、この曲をオーケストラで指揮したばかりなので、記憶に残っていますよ。ショパン、リスト、ベートーヴェンの皇帝の3曲のコンチェルトを指揮しましたが、やはり、ショパンやリスト、彼らは本人がピアニストですから、オケは一歩下がって・・・という感じですね。ベートーヴェンは対等に書いていますけど。
ですから、その立場から、僕の立場からいうとですね、「楽しませて下さい」につきますね(笑)。