50周年企画「対談インタビュー」 第5回 熊谷洋×堀明久
ピティナは、ピアノ指導者が運営・企画に主体的に参画することが、大きな特徴の一つと言える。1966年、創業者、福田靖子先生の立ち上げた組織が、50年を経て全都道府県に拡大し、16,000名の会員の多くが、各地の支部やステーションに関わって、楽器店などとの連携のもと、地域の音楽普及活動を支えている。2月28日記念式典&演奏会に向けた対談シリーズでは、その発展の過程で、本部の組織委員として1993年から今日まで、各地の運営の活性化のために奔走してきた熊谷洋理事(組織委員長)にお話をうかがった。
(聞き手:本部事務局 組織運営室長 堀明久)
- 堀
-
熊谷洋先生は、各地のピティナの組織の発展拡大のために、多くの時間を費やして下さっています。1993年に組織委員に就任後、新しい支部がいくつ設立されたか調べたところ、53地区あり、4,550名の会員と173のステーションに関連しています。支部は全国に124地区ですので、その4割以上に熊谷先生が関わっていることになります。新設ばかりでなく、事務局の楽器店や代表者の変更、時には解散、等々の対応もあり、様々です。
- 熊谷
-
組織委員を始めた頃、ピティナの会員数は4000人位だったと思いますが、その後20年くらいで一気に3倍以上になりました。コンペティションは3万人で頭打ちだろうと言われていた時にも、もっといける、と思っていたら、4万人もはるかに超える盛況ぶりです。
- 堀
-
23年くらい前、私がピティナ本部事務局に入って間もない頃は、支部の皆様が集まる会議に同席すると、支部と本部の関係が現在に比べてもっと緊張状態におかれていて、各地とのコミュニケーションや信頼関係が不安定だった気がします。
- 熊谷
-
当時はまだ、コンペティションだけ開催されていた頃ですね。活動範囲が大きくなればそれだけ、きちんとした組織として動く必要があります。弦楽器や声楽はオーケストラとかコーラスで交流がありますが、ピアノ指導者は基本的には個人事業主で、組織立って動くことに不慣れなので、自分の価値観で行動してしまうのは、致し方ないこととも言えます。そこにピティナが介在するのは大事なことで、そのおかげで、我々ピアノ指導者は、「こういう意見は通らない」とか「話し合っていかねばらならない」とか、分かるようになったのだと思います。
- 堀
-
熊谷先生は常々、「組織としてどう動くべきか」という観点をお持ちですね。
- 熊谷
-
ピティナは刻々と変化し、進化しています。現在のピティナの主旨に合った活動をしているかどうか、いつでも会員の参画しやすい組織かどうか等々、気になった地区には、その都度出かけて話し合いを行って、コミュニケーションをはかる機会を作ってきました。ただ参加人数を増やせ、とか促すわけではありません。多様化の時代、いろいろな習い事の中で、音楽という、感性を育てる大切な教育が居場所をなくしつつあります。音楽を育むためには、ピティナの理念がスムーズに展開できる場所作りが必要で、それが、各地の支部・ステーションなのです。
- 堀
-
ピティナのようなピアノ指導者の組織は、世界でも類を見ない団体ですよね?
- 熊谷
-
はい。ピアノ指導者たちが集まって、委員会があって、各地で現場を運営する。支部やステーションの役割はとても重要です。その代表者には、ピティナという団体の使命とか役割とか、大きな意味をしっかり把握していただいて、なるべく会員や協力者をたくさん集めて、そこからコンペやステップを盛り上げていただきたいものです。
- 堀
-
ピティナの目的・趣旨・良いイメージをさらに定着させるために、協力者はますます増やす必要がありますね。
- 熊谷
-
各地の支部長やアドバイザーに組織委員をお願いして、さまざまな現地の情報が得られるようバランスを考えています。その一人が沖縄支部長の糸数ひとみ先生ですが、1997年に現在の沖縄支部が発足する以前、運営面でのトラブル等々の諸事情で、沖縄にピティナの拠点の無い時代がありました。ピティナに対する偏見や誤解が渦巻く中、誰に協力していただくのがよいか一年がかりでリサーチし、糸数ひとみ先生にお願いすることになりました。なかなか頷いていただけず、数時間がかりでの会談になったことを覚えていますが、沖縄は今では、会員100名以上、年にコンペ500名くらい、ステーション7地区という、全国有数の充実した支部に発展しています。
- 堀
-
熊谷先生と会話していると、どんな時も慢心に陥ってはいけない、という気持ちが伝わってきます。そのような角度からピティナを見守って下さる存在は、とても貴重だと思います。正義感を持って、見て見ぬふりしないで、各地の活動の平準化を推進されました。
- 熊谷
-
組織が大きくなったからこそ、健全でないと、あの団体はこの程度か、などと皆の期待を裏切ることになるし、参加者・生徒さんを減らすことにつながるし、最終的には、個人の一人一人に還元されていくのです。大きな組織を維持していくことは並大抵ではないし、健全な組織を維持させるための怖さも知っておかなければなりません。理想を追求するのはよいことだけれど、人間のやることだから難しさも出てくる。どういうやり方で理想を求めていくか。時に、用心深く対応する必要があります。子どもたちがよく育つ環境、良い勉強ができ良い指導が受けられる、そういう団体であってほしい。指導者も学んで、良い指導者になる。ピティナもピアノ教育業界も、皆で力を合わせれば、まだまだ伸ばせますよ!