開催レポ:第46回コンペ特級グランプリ「北村明日人ピアノコンサート」in YAMAHA名古屋より
2022年8月に第46回ピティナ・ピアノコンペティション特級グランプリを受賞してからの北村明日人さんの充実ぶりは目覚ましいものがあります。まさに各地から引っ張りだこのご活躍ぶり。
そして4月、北村さんは3回の春のサロンコンサートを予定しています。その初回「北村明日人ピアノコンサート」が去る4月9日(日)ヤマハグランドピアノサロン名古屋で開催されました。
ピアノはヤマハCF6で観客定員は30名。プログラムは全て「ドイツもの」で「ニ長調」春らしい4曲です。
最初の和音が一陣の爽やかな風のように会場に響き渡ります。その風に乗り、北村さんの微かな歌声が。演奏する姿からは音楽を奏でる楽しさが溢れ、会場の雰囲気は早くも春のワクワク感でいっぱいになりました。美しいメロディが紡がれるアルマンド、大胆な展開のクーラント、内省的で優美なサラバンド。曲はメヌエットからジーグへ。活気溢れる演奏に大きな拍手が起こりました。
高速でアクティブな第1楽章。第2楽章の重く心情を映すような和音を、北村さんは一音一音響きや意味を確かめるように奏でます。観客も息を詰めて聴き入り、北村さんと一緒に和声の意味を確認した気分になりました。第3楽章は明るく鮮やかに駆け抜け、前半が終了です。
北村さんのゆったりとした演奏に、会場の空気が変わったのが分かりました。苦難を思わせる第2楽章や第3楽章スケルツォへと曲は移行し、北村さんは音を大切に紡いでいきます。繊細、かつダイナミックに。曲調の変化は時の流れを思わせます。北村さんの音楽にすっかり身を委ねていたので、終了時はまるで夢から覚めたような感覚を覚えました。
演奏に入る前たっぷりと時間を取った北村さんから、集中が伝わってきます。深い呼吸とともに奏でられた「主題」は、まるで教会の中にいるように崇高に響きます。続く変奏曲はメロディだけでなく構造や音の組み合わせなどの変化もあり、その深遠さに引き込まれました。
演奏が終わり、北村さんは観客にご挨拶。「名古屋での公演は初めてです」とのお言葉に温かい拍手が送られます。
アンコールはブラームスOp.118-2。微笑みをたたえながら弾く北村さんの演奏からは、ブラームスへの愛がまっすぐに伝わってきました。とても幸せな時間でした。
終演後に北村さんにインタビューさせていただきました(敬称略)。
「ドイツもの」「春らしい」「ニ長調」となった公演プログラムについて教えてください。
北村明日人を知ってもらいたい、初めましてと言う気持ちで一番最初にドイツものでやることを決めて選曲したら、たまたま全部ニ長調になりました。ニ長調は春の印象が浮かびますね。また私はよく弦楽器の伴奏をするのですが、ヴァイオリンコンチェルトは開放弦の関係でほとんどニ長調かイ長調なんです。そのイメージがありますね。 最後のブラームスOp.21-1は、自分でオーケストレーションして、ここはチェロだなとか書き込んだりしています。オーケストラの音を意識すると、ニ長調というのはとても明るいというか、いろんな音色が自分の中にイメージできる調だなと思っています。
「風景が見える」「自然がふわっと広がる」曲を選曲すると仰っていましたね。
まず風景が浮かぶかどうかが大切で、鮮明に浮かぶ曲ほど弾きたくなります。ブラームスOp.21-1は、森と、水と風の吹き方、それを今ここ(※ピアノの演奏)で創るというイメージです。
パルティータも水の流れ方だったり風の吹き方だったりを、即興的に(演奏の場で)表わすことができるので特に好きな曲です。「表す」というのは元々の形を提示するのではなくて、色付けできるかどうかということです。
北村さんの天から降ってくるような音の美しさと、ダイナミックでスケールの大きな演奏に感動しました。
自分にとってひらめきは大変重要です。練習は積み重ねるものではなく、ひらめきを促すためのもの。色んな(新たな)ひらめきを演奏で出せないかと常に試行錯誤しています。いつも初めての感覚でいることが大切だと思うのです。もちろんそのためには精神的な修行の部分も必要かもしれませんが。そういう即興性を通じて改めて「ああブラームスはこんな風に準備していたのか」と感じたり、またそれを再び演奏に出していくというのがコンサートの楽しみだと思います。
アンコールのブラームスOp.118-2は大きな愛が感じられて会場が幸福感に包まれました。
本当にブラームスは好きです。
つい先日コンサートで屋久島を訪れ、翌日縄文杉を見る機会がありました。もう圧倒的な迫力で、縄文杉に合うBGMは思いつきませんでした。縄文杉を見てから(曲を思い浮かべる時の)イメージが変わりました。もっとシリアスになったというか。今日の演奏も、これまでと全然違ったものになったと感じています。きっと同じプログラムでも、東京と大阪はまた変化すると思います。
ピティナ特級グランプリ受賞後、多くのコンサートを経験されましたね。浜離宮朝日ホールでのソロリサイタルがありました。
もう本当に良かったです。浜離宮コンサートが決まり、10月からドキドキしていました。あの大きい場所で、自分の音だけが鳴っている感覚は最高でした。機会あればまた演奏してみたいですね。
伴奏のコンサートも多かったですね。「伴奏が好き」というお話を以前もされていますが、今後はどんな活動をしていきたいですか?
伴奏は相手を見つけるのに時間がかかります。今はピティナさんが協力してくださっているので、だんだん口コミで伝わること等で、伴奏者としての僕をもっと色んな方に知っていただきたいと思っています。将来はソロと両方どちらもできればと希望していますが、今は特に伴奏の方に力を入れたいと考えています。
小さなお子さんの伴奏も多くされていますね。
子供達の伴奏はとても楽しいです。今日のコンサートにも、僕がいつも伴奏させてもらっている、名古屋のヴァイオリンの子達が来てくれていました。
伴奏が好きなのは「自分が舞台で弾きたい」「誰かと弾きたい」というのもあるし、(相手が)子供だった場合はそこに「教える」という要素が加わる。やりたいこと3つ全部揃うので、子供達の伴奏は特にやっていきたいと思っています。
演奏を聴いてくださるお客様に伝えていきたいことは?
僕が好きだと思うものを演奏して、(それを)いいなと思う方に来ていただいく、というサイクルだけで満足しています。もちろん将来は他にも何か新しい考えが出てくるかもしれないし、もっとエンタメ的要素にも目を向けるかもしれませんが、今はドイツものの良さを伝え、皆様に分かっていただけたら嬉しいな。
例えば音楽を言葉で表現したり、あるいはYouTubeやインスタグラムといった手段で伝えていくことも今後は増えるかもしれませんね。
子供にも楽しんでもらえることとかしたいですね。伴奏をしている子達にもソロを聴いてもらいたい気持ちもあります。
今教えている音楽教室でも、ソルフェージュ兼音楽史兼和声みたいに、曲を深掘りできるためのいろんな視点を自分なりに試みています。何がその子にとって成長に繋がるかは分かりませんがとりあえず僕ができることは全部出そうという気持ちです。
今後もドイツものを中心に活動されていくのですね。
そうですね。あとは家で楽しんで、自信がついたらドビュッシーでもやるか、ラヴェルでもやるか。自由に考えたいと思います。
演奏中も終演後も笑顔で対応してくださった北村さん。コンサート終演後には、沢山の子供達に囲まれ、楽しそうに談笑していました。北村さんが伴奏してきた小さな音楽家達だそうです。これからもこうした人と人との繋がりの中で、北村さんの音楽人生はますます花開いて行くのでしょうね。
(レポート:2022特級公式レポーター・カイネ♪あのん)
春を呼ぶドイツもの、ニ長調祭りのこのプログラムはあと2回、ベーゼンドルファー東京サロン(4月15日)とヤマハグランドピアノサロン大阪(4月23日)で行われました。
<名古屋>使用モデル:CF6 調律師:岡本鋭一郎(ヤマハミュージックリテイリング名古屋店)
<ベーゼン>使用モデル:Model280VC 調律師:松元伸弥(ベーゼンドルファー・ジャパン)
<大阪>使用モデル:CFX 調律師:山口文華(ヤマハ株式会社)