実施レポ:公開録音コンサート パリ公演
去る2013年4月24日、フランス・パリで海外初の公開録音コンサートが行われました。プログラム構成、企画指揮はピティナ・ピアノ曲事典等で執筆をしている在仏の研究者、上田泰史さん(ピティナ研究会員)です。なお、本企画は「エスパス・ハットリ」ご協力の下、実現しました
今回の演奏会テーマは『リストとタールベルク』。それぞれハンガリーとスイスから彗星のごとくパリに現れ、1830年代から40年代にかけて鎬を削った二人のピアノの名手に焦点を当てました。国際都市パリにふさわしい企画です。演奏者はエコール・ノルマルで演奏家ディプロムの取得を目指す5名のピアニスト、櫃本優子、平沢春菜、田口翔、中山翔太、塩川正和の各氏でした。スペシャル・アドバイザーにはパリの第一線で長年にわたり活躍されてきたピアニストの菅野潤先生(ピティナ正会員)をお迎えし、数々の貴重なアドバイスを賜りました。
特別料金で会場提供して下さった「エスパス・ハットリ」所有者の服部祐子氏は、パリ日仏文化センター(1993~)創設者で、日仏文化交流の中心的存在です。2003年から2010年にかけて8回にわたり、ユネスコ本部と在フランス日本大使館後援の下、パリで『こいのぼり祭り?世界こどもの日』を企画されてきた実績があります。この度は『ピアノ曲事典』の活動ならびに公開録音コンサートの趣旨にご賛同下さり、多大なご尽力を頂きました。
演奏会当日は計46名のお客様にご来場頂き、361ユーロ(約46,000円)の収益が得られました。今後は一般企業等からの助成、在仏日本大使館の後援などを得て継続を図る方針です。
一方で、演奏会そのものはたいへん充実したものでした。服部さんの挨拶に始まり、上田さんのフランス語による口頭の解説、菅野先生のスピーチで演奏会の幕が上がりました。プログラムは前半がリスト、後半がタールベルク作品でした。リストは演奏機会の少ない作品ですが、リストの青年期、壮年期~晩年にかけての芸術的姿勢を象徴する作品を年代順に聞くことで、聴き手は生涯の創作の変化を辿りながら熱心に聞き入り、最後の『メフィスト・ワルツ 第三番』で喝采のうちに前半が終わりました。
後半のタールベルクはほぼ全ての人にとって、初めて聴く作品ばかりだったと思います。こちらも作品を出版年代順に並べ、リストの歩みと比較できる構成でした。『スケルツォ』作品31の演奏に始まり、『モーゼの主題による幻想曲』作品33と『「夏の名残りのばら」による変奏曲』作品73で会場の熱気は最高潮に達しました。続く後期の2作品を終えた後、なぜタールベルクの作品はもっと演奏されないのか、リストに劣らないピアノ音楽を目の当たりにしたという感想が来場者、演奏者から異口同音に発せられました。
『ピティナ・ピアノ曲事典』というプロジェクトはこうした演奏会の企画を通して知識を提供するだけでなく、歴史的情報を生きた感動的瞬間に変える新しい演奏会の枠組みを作りつつあります。それは、探究心に動機づけられた献身的なピアニストと研究者、主催者、会場提供者の相互理解と共感から生まれる貴重な時間です。そこには、もはや国境はありません。今後も価値ある文化的情報と感動の発信源として、企画継続に尽力したいと思います。