第16回:北本市立中丸小学校 2006年2月2日(木)
今回はピアニストの伊賀あゆみさん(1997年特級金賞)が、ヴァイオリニストの竹中勇人さんと、初のクラスコンサートに出演した。楽しいお話とクイズを交え、生徒たちも積極的にコンサートに参加し、一体感のある盛り上がりを見せた。文化庁文化部長の寺脇研氏、北本市石津市長も見学された。
「おはようございまーす!」と元気よく教室に入ってきた中丸小学校の生徒たち。いつもと同じピアノが、大きくふたをあけて真ん中に置かれ、いつもと違うプロの演奏家がいることに、早くも興味津々。「今日は、音楽を通じてみんなと一緒の時間を過ごせることを、とっても楽しみにしてきました。お話をしながら元気にどんどん参加してくださいね!」と伊賀さん。まず始めはピアノに関するクイズから。
「ピアノには、鍵盤はいくつあるでしょうか?」と画用紙で3択を示す。「じゃあ、その88個ある鍵盤の中で、一番高ーい音と、低ーい音は、何の音でしょう?」「えー聴いたことないよー。」「では、弾いてみましょう。」と腕を伸ばして一番高い音を出してみる。「ピアノの高い音って、こんな音が出るんだね。よーく耳を澄ませていてね。」といって、一番高い位置で「ミッキーマウス・マーチ」を奏でる。高い音で弾くと、さらにかわいらしくなる。「じゃあ、低い音は...」と、一番低い音を使って「ぞうさん」のメロディをゆっくりと弾いてみる。「うわ、なんだかこわいー。」と、めったに聴いたことのない部分の音も、じっくりと聴いてみると色々な想像がふくらむ。
「それでは、ピアノの中やペダルを見に来てほしいから、ピアノの周りに集まってみて。」と誘うと、「オッケー!」とみんな大喜びでピアノの周りにかけよってくる。まず最初に演奏する曲は、子どもたちも大好きな「エリーゼのために」。「みんなこの曲知ってる?」「知ってるー。ベートーヴェンって、怒ったような顔した人でしょ?」「この曲は実は"テレーゼさん"のために書いた曲です。テレーゼさんてどんな人でしょう?」と伊賀さんが1冊の本を取り出すと、「美人?」一斉に覗き込む。「この写真の人がテレーゼさんです。ベートーヴェンはその人が大好きで大好きで、その人を想ってこの曲を作りました。さあ、これから弾いてみるので、どんな気持ちがこめられているのか、想像しながら聴いていてね。」と、生徒たちに囲まれて『エリーゼのために』を演奏し出すと、周りを囲んだ生徒たちは、演奏する伊賀さんの姿を目の前で見ながらかたずをのんで聴き入った。
演奏を終えた伊賀さんが「どんな感じがした?」と聞くと、「なめらか。」「途中迫力があった。」「かなしい感じがした。」「そう、ベートーヴェンはテレーゼさんのことが大好きだったのだけど、テレーゼさんはそうじゃなかったみたいでね。」「失恋?」「そう、だから今もみんなが感じてくれたように、悲しい感情があらわれていたんだね。音楽はそうやって、人の感情を伝えることができます。次の『革命』の曲は、ショパンが自分の国で戦いが起こったことを聞いて、怒った感情や、お父さんお母さんが生きているかもわからなくて不安な気持ちなどがこめられています。」一転して激しい音楽にみな立ち上がり、伊賀さんの激しい指の動きや表情、足や弦の動きを見逃すまいと一生懸命に見つめる。弾き終わると「すごーい!」と大喝采。
続いてはヴァイオリンの登場。「さて、このヴァイオリン、この茶色の部分は見てわかるように木でできているね。では、この4本のもの、これは弦というのですが、外側は金属でできています。では、中には何が入っているでしょう?」と竹中さんが問いかけると、「ゴム!」「木」「からなんじゃない?」と元気な声が飛ぶ。「実はこれは、何かの動物なんだけれど。」「えーっ!?」「じゃあ、くじら!」「羊!」「牛」「へび!?」と想像がふくらむ。「正解は、羊さんでした。」「えーっ!スモールライトで小さくしたの?」「ここに入っているのはね、羊さんの腸なんです。」そして今度は弓を枝の部分からはずし、「じゃあこっちは何でできているでしょう?」と言うと、「白髪!」「やぎのひげ。」「馬のしっぽ。」「そう、馬のしっぽを白くして作られています。だから、ヴァイオリンはこうやって弦を弓でこすって音を出すのだけれど、馬で羊さんをこすっていることになるね。」「ひゃ~、かわいそう...」
ヴァイオリンでの1曲目は、サン=サーンスの『動物の謝肉祭』から。「この曲には色々な動物が出てくるのだけれど、これからみんなに聴いてもらって、何の動物か、当ててもらいたいと思います。」と、伊賀さんが画用紙に書いてきた絵を見せた。「1番は...」「犬!」「2番は」「へび!」「そして3番は...」「ハト?」「あひる!」「...実はこれは、白鳥のつもりだったんです。ごめんね、下手で。」と言うと、「いや、うまいうまい!大丈夫!」と、もはや生徒たちもすっかり溶け込んで一緒になって場を作り上げている。
そして演奏を始めると、みな一生懸命にその響きの様子を頭にめぐらせて静かに聴き入る。終わると「白鳥!」と大正解。「みんなだんだんと感覚が研ぎ澄まされてきたね。」と伊賀さんも感心。続いてはモンティの『チャールダーシュ』。「ジプシーという民俗が、われわれは日本人だ!というようなことを歌った曲で、途中で指や弓をすごく速く動かして弾く所もあるので、注目して聴いてください。」と言って演奏を始めた竹中さんに、終わると「すごーい、かっこいーい!」と生徒たちから声がかかる。次の曲の準備をしている間も「タラララタラララ♪」と覚えたてのメロディを口ずさむ生徒も。
次の『ラデツキー行進曲』では、竹中さんはヴァイオリンのほかに指揮者も務める。「この曲はコンサートで演奏される時には、お客さんがみんな手拍子をする曲なんです。だから今日はみんなにも手拍子で参加してもらいたいと思います。ぼくが指揮や顔で合図をするから、大きく手拍子をしたり、小さく手拍子したり、手拍子をやめて伊賀さんのピアノを聴いたり、やってみてください。」と言うと、生徒たちは竹中さんの手や表情を見て演奏の盛り上がりにあわせて楽しそうに手拍子をする。途中の聴かせ所では、竹中さんもヴァイオリンで参加。みんなも曲を聴きながら、次は大きくかな、小さくかな、と予想しながら、1曲の中で色々な表情と聴き方を体験し、終わった時には一緒に作り上げた達成感でみんな笑顔でお互いに拍手した。
最後には、みんなのリコーダーと一緒に『オーラリー』を、そして元気な合唱で校歌を共演した。コンサートを通じて一体感が出てきた演奏者とクラスのみんなは、息もぴったり。終わりの時間が近づくと、「もう1時間やりたい!」「アンコール!」という声や、「ピアノやヴァイオリンを始めたきっかけは何ですか?」という質問も。「小さい頃に、『チゴイネルワイゼン』が弾けるまでがんばろうね、と言われてヴァイオリンを始めたんだけれど、すごく難しい曲なのね。だからそんな感じでずっと続けてきたらここまできました。こんな曲なんだけど知ってるかな?」とさわりを弾くと、「すごーい、弾けるようになってよかったね!」と。
見学に来られた文化庁・寺脇研文化部長と北本市石津賢治市長も、子どもたちの元気に質問する姿、真剣に聴き入る姿を笑顔で見つめた。最後に1曲クライスラーの『美しきロスマリン』をアンコールで贈ると、代表の生徒さんからきれいな花束がプレゼントされることに。「竹中さんに渡したい!」「ぼくは伊賀さんに渡したい!」と大人気の二人。終わってからも、「握手して!」などと名残惜しそうに話し掛けられていた。
- ベートーヴェン「エリーゼのために」(ピアノ)
- ショパン「革命」(ピアノ)
- サン=サーンス「『動物の謝肉祭』より 白鳥」(ヴァイオリン&ピアノ)
- モンティ「チャールダーシュ」(ヴァイオリン&ピアノ)
- シュトラウス「ラデツキー行進曲」(ピアノ&ヴァイオリン・指揮)
- プールトン「オーラ リー」(リコーダー合奏)
- 「北本市立中丸小学校校歌」(合唱)
- クライスラー「美しきロスマリン」(ヴァイオリン&ピアノ)
協力: 北本市立中丸小学校
後援:北本市教育委員会
主催・問合:ピティナ学校クラスコンサート係